- 日本の株式市場はなぜ海外の投資家からは見向きもされないのか?あるいは逆に、海外の投資家たちの好きなように弄ばれてしまうのか?
- 日本人はなぜ日本の株式市場には投資をしようとせず、アメリカ株など海外に好んで投資をするのか?
- そもそも日本人はたくさんの余裕資金を持っているにも関わらず、株式投資をする人が少ないのはなぜか?
これらの理由について、根本的な問題点を東京証券取引所がレポートでまとめていたのでご紹介します。
『市場構造の在り方等に関する市場関係者からのご意見の概要』と題されたこのレポートは、国内外の証券会社をはじめとする市場関係者、ベンチャーキャピタル、上場企業、監査法人、大学教授、法律事務所などからアンケートとヒアリングにより意見を募集したもので、日本の株式市場における問題点を指摘しています。
レポートは長文に渡るので、特に気になった部分をピックアップしてご紹介します。
日本市場の根本的な問題が理解できるので、日本市場に資金を投じている方は参考にしてください。潜在的な問題を知っておくことで、不要な失敗を防げます。
市場の分類が分かりづらい(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックの違いが明確ではない)
現在の東京証券取引所には
- 市場第1部(東証1部)
- 市場第2部(東証2部)
- マザーズ
- ジャスダック(スタンダード)
- ジャスダック(グロース)
の5つの分類があります(日本取引所グループ:市場概要)。
分類制度を作成した人たちは上場する企業の性格や成長性、時価総額に基づいた「明確な分類」ができた”つもり”なのかもしれませんが、投資家の立場では何がどう違うのか非常にわかりにくいです。
市場関係者からも下記のような意見が出ています。
現在の四つの市場区分(市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQ)は過度に複雑で断片的、特に市場第二部、マザーズ及びJASDAQの差異は、投資家にとって分かりにくく、それゆえに、日本で上場する中小企業に対する潜在的な投資家の興味・関心を損なっている
異なる四つの市場区分が存在することは、企業の資金調達能力を高めることにはつながっておらず、投資者の利便性も向上させていない
現在の市場区分ほどの数の市場は必要ない
複数の市場区分があるため、中小上場企業への投資リスクが分かりにくくなっている
マザーズとJASDAQグロースは、共に成長性の高い新興企業の上場先だが、違いが分かりづらく、投資家の混乱を招いており、新興企業の成長の動機付けにもマイナス
市場第二部とJASDAQスタンダードが併存しているが、二つの市場を維持する必要性はない
イメージとしては東証1部が大企業、東証2部は中小企業、マザーズとジャスダックは成長の著しい新興企業(その代わりに事業が失敗するリスクもある)なのですが、実態は全然そうなっていません。
東証一部でも弱小企業はごまんとありますし、マザーズに上場しているくせに一向に成長しない企業もたくさんあります。
これでは「あまりよく知らないけど東証1部は大企業だから株を買っても安心」といった理由で投資をはじめる人が生まれるはずもなく、結果的に日本の証券市場への参加者を減らしてしまっています。分類があいまいでトラップ(東証1部なのに弱小企業など)も多いので、企業のことをよく勉強しているごく一部の人しか投資できる環境ではありません。
投資にリスクはつきものですが、「投資初心者でも始めやすいか?(投資しやすいか?)」といった観点では制度的に不十分です。
上場基準が低すぎる(東証1部)
市場分類のわかりづらさに加え、上場基準の甘さについても指摘されています。
特に東証1部では現在、時価総額基準として、直接上場の場合には250億円、マザーズ経由あるいは東証2部経由の場合には40億円という水準になっていますが、なぜ直接上場では250億円なのに他の市場を経由すると40億円でも上場できるのか?についての明確な理由が示されていません。
これでは本来であれば時価総額の大きい大企業だけが分類されるはずの東証1部に、時価総額の低い弱小企業が紛れ込むことになります。個人投資家からすれば東証1部の大企業に投資したつもりが、紛れ込んでいる地雷企業(弱小企業)を掴まされることになり、過大なリスクを負わされている状態です。
理屈に合わない制度は今すぐ撤廃し、個人投資家が安心して投資できる環境を整える必要があります。
ガバナンス体制が整っていない
日本市場の上場企業には、経営体制・ガバナンス・情報開示が低水準な企業が多数含まれています。
「上場ゴール」のように”投資家を騙してお金を集める企業”も多数存在し、しかもそれが許されています。投資判断に関わる重大な情報の不正については罰則を強化するなどして、個人投資家が不正な企業や投資リスクの高い企業には投資できない仕組みづくりが必要です。
「株主は俺の財布」と思っているとしか考えられない経営者もおり、経営者や役員に焦点を当てた上場審査も必要でしょう。
親子上場や社外取締役の比率については最近になってようやく注目され始めましたが、これまでは誰も気にしてこなかったということでもあり、日本の上場企業の経営体制や監視体制には不備が多いです。
ガバナンスが未熟なままでは日本の個人投資家にとって不利益になるだけではなく、海外からの投資を呼び込む際にもデメリットになります。ガバナンスの整っていない日本市場に投資すると「ハズレ」を引く可能性が高く、まともな人は日本企業に投資しようなんて考えないからです。
上場廃止基準が緩すぎる
上場廃止の基準も甘いです。
- 流通株式比率が5%未満
- 流通株式数が2,000単位未満(マザーズは1,000単位未満、ジャスダックは500単位未満)
- 時価総額5億円未満(ジャスダックは2.5億円未満)
- 株主数400人未満(ジャスダック、及び上場後10年以上経過しているマザーズ企業は150人未満)
となっています。
これではあまりにも上場廃止基準が甘い状態であり、投資適格の無い企業がいつまでも居座ってしまいます。
老い先短いゾンビ企業をいつまでも上場させておくのは、投資家だけではなく他の上場企業にとっても迷惑です。投資家にとってはいつ倒産してもおかしくない地雷企業を掴まされるリスクが高い状態であり、安心して投資できません。また投資家が持っている資金の量には限りがあるため、弱小企業に資金を拘束されてしまうと他の有望企業への投資ができません。
死滅するのが明白なゾンビ企業のせいで、成長著しい若い企業が足を引っ張られているようなものです。上場廃止基準をもっと厳しくし、市場の新陳代謝を活性化する必要があります。
マザーズについては成長を目指す新興企業だけが上場できるはずなのに、10年経過してもマザーズに居座っている企業もあります。10年間なんの成果も残せず成長できなかった企業には投資する価値はありません。マザーズに上場した企業については上場後5年を目処にして強制的に上場廃止させ、東証1部への昇格を促すのが良いでしょう。
「上場企業」のステータス(看板)が欲しくて上場している企業が多い
本来であれば企業が上場する目的は「個人投資家や機関投資家から幅広く資金を調達し、企業の成長を加速するため」でなければなりません。
つまり上場したからには、企業は自社の成長と株主への利益分配に邁進しなければならない。投資家に資金を提供していただいた代わりに、企業価値の向上という約束を果たさなければならないわけです。
ところが日本の上場企業には、そういった投資家との約束を守らず、「わが社は東証1部上場企業です」「マザーズに上場している信頼できる企業です」といった看板やステータス欲しさで上場している企業が多数みられます。
投資家から資金を提供してもらっているにも関わらず”企業の成長(企業価値の向上)”という約束を果たさず、自社の利益(もっといえば役員の給与)だけを追い求めているとしか思えないような企業がたくさんあるわけです。
成長努力を怠っている老害企業には即刻退場してしていただき、投資家にとって利益になる企業だけが上場できるように改めるべきです。
日本の株式市場の構造的問題(まとめ)
以上のように目についたものをピックアップしただけでも、
- 市場の分類が分かりづらい(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックの違いが明確ではない)
- 上場基準が低すぎる(東証1部)
- 上場廃止基準が緩すぎる
- ガバナンス体制が整っていない
- 「上場企業」のステータス(看板)が欲しくて上場している企業が多い(成長努力を怠っている)
といった問題点が指摘されています。
一朝一夕で改善できるものではありませんが、レポートで指摘されている問題点が改善されない限り、まだ投資をしたことのない人が投資をはじめる可能性は低く、仮に投資デビューしたとしてもクソ株を掴まされて大損失を被り「投資は怖い。株はもう2度とやらない。」とマイナスなイメージを植え付けるだけです。
また現在の構造的な問題が続く限り、海外の投資家が日本企業の成長を信じて真面目に投資をすることはありえません。
日本市場の売買代金の半分くらいは海外の機関投資家によるものですが、これは企業成長を見込んでのものではなく莫大な資金で株価を”弄ぶ”ことによって利益を得るためです。それだけ日本の株式市場はバカにされているということであり、なんの対策も打たなければ、株式市場の健全な発展は望めません。
日本市場の構造的問題が続くことは国民の投資離れを一層明確にし、資金調達したい企業側にとってもデメリットです。株式市場の関係者や企業の経営者、及び役員はこのことを自覚し、自らの手で日本市場の健全化を図っていただきたいと思います。いますぐ改革しなければ、10年後には誰も日本企業に投資しようとしなくなるでしょう。そうなる前に改革を実行する必要があります。