財務省のウェブサイトで投資関連の資料を探していたら面白いレポートを見つけました。機関投資家が好んで取引する銘柄についてまとめてあります。

まだ途中までしか読んでいませんが、機関投資家の売買傾向を知るうえでとても参考になりました。

莫大な資金を武器とする機関投資家は、現在の日本の株式市場において無視できない存在です。あまりにも力が強大なため、時には相場の流れを左右するほどだからです。

しかしそんな機関投資家でも、味方に付けると心強い味方になりえます。機関投資家と同じ銘柄を保有することができれば、儲かるのが保証されているようなものだからです。

今回は財務省のレポートに記載されていた内容のうち、機関投資家が選好する銘柄についてご紹介します。機関投資家は世界中の金融商品に投資して利益を得ていますが、今回は日本株に限定した内容でお届けします。

機関投資家の売買傾向(一般的な情報の確認)

まずはじめに機関投資家の売買傾向について、既存の情報、よく知られている情報についておさらいしておきます。

莫大な資金を持つ機関投資家たちは一般的に「規模・流動性、収益性、安定性、財務健全性などの点で質の高い企業の株式を選択する」傾向にあります。業務として金融市場から利益を吸い出している以上、当然といえば当然です。

規模の大きな企業

それぞれの理由について簡単に説明しておきますと、「規模」は時価総額の高い企業のことを指しており、いわゆる大企業の株を買うということです。規模の小さい企業の株を大量の資金で買い付けてしまうと、自分たちの買付行為が原因となり株価が上昇してしまいます(クジラ)。安く大量の株数を確保しておくためには、ある程度規模の大きな企業の株を買うことが求められます。

時価総額の下限は1000億円程度を設定している機関が多いそうです。

流動性の高い銘柄

また「流動性」とは、その株をいつでも買える・いつでも売れることを意味しています。

株は「買いたい人」「売りたい人」が同時に存在するときにしか売買が成立しませんが、極端に出来高の少ない銘柄だと、買値から十分に株価が上昇した場合でも買ってくれる人がいないため簡単に売り抜けることができません。リスク管理の観点からも機関投資家は大量に買い集めた株を売りたい時にいつでも売れるようにしておきたいため、ある程度の流動性のある銘柄を買う傾向にあります。

一般的には規模の大きい(時価総額の大きい)銘柄ほど流動性は高い傾向にあるため、規模・流動性のある銘柄が選好されます。

収益性、安定性、財務健全性

株価は将来の利益・売り上げを見込んで上昇・下降します。

収益性の高い企業ほど安定的に利益を積み上げることができると考えられるので、収益性の高い企業ほど機関投資家に好まれます。

安定性は毎年安定的に利益を出し続けていることを意味しており、ヒット商品や流行のおかげで偶然利益を出せたような企業ではなく、人々の需要に基づいて将来も安定的に売り上げを確保できる企業ほど好まれるということです。

また借金の多い会社はひとたび資金難に陥ると倒産する危険性があるため、財務の健全性も求められます。

機関投資家は個人投資家とは違い、ギャンブルや勘で取引することはありません。常に明確なロジック、売買基準に基づいて取引しています。

社外取締役の割合いを重視(独立性)

ここからはレポートを読んで参考になった情報です。

近年ESG投資として、環境(Environment)、社会活動(Social)、企業統治(Governance)の観点から投資対象企業が選ばれるようになりつつあります。

ESGの中でも特に企業統治が重要視されており、海外の機関投資家ほど

  • 役員数
  • 銀行・親会社以外の社外取締役の比率
  • 大株主の構成

を見ているそうです。

そして役員数は少なく、社外取締役の比率は高く、問題のありそうな大株主のいない企業ほど投資対象に選ばれやすく、独立色の高い取締役への選好が強いそうです。

たしかに役員数は少ない方が意思決定が素早くできるため経済状況や時代の変化への対応が早くできますし、融資を受けているからといって銀行から天下りしてきただけの人を経営陣に加えるのは適切とはいえません(類似例:コナカ(7494)が神奈川県警の天下り先になっている件について)。

また、大株主がベンチャーキャピタルなど問題のありそうな株主構成だった場合も、短期的な利益を求めて経営陣にプレッシャーを与え、無理な経営に陥るリスクがあります。

情報公開が進んでいる(透明性)

社外取締役の比率など企業統治の状態が機関投資家の投資判断に影響を与える理由として、情報の非対称性が挙げられます。

よく知っている企業や自国の企業であれば詳細な調査をすることができますが、あまり馴染みのない企業や外国の企業のことは調べようと思っても十分な情報を得ることが出来ず、投資先としてリスクが大きくなります。このことは海外の機関投資家が日本株を買う際にも当てはまります。

海外の機関投資家は企業側が公開している情報を元にして投資判断するしかありません。そのため外部から判断可能な情報、すなわち役員数や社外取締役の比率、株主構成といったものを基準にして投資判断するわけです。

役員の経歴や詳しい情報を公開している企業は機関投資家にとって”透明性が高い企業”として買いやすいですが、経営陣の経歴を知ることのできない企業や役員人事に不透明な部分がある企業はそれだけで”投資不適格”の烙印を押されることになります。

海外の機関投資家はMSCI Japanインデックス採用銘柄を取引する

あまり知られていないこととして、MSCI Japanインデックスの存在があります。レポートでは下記の記載がありました。

海外機関投資家からのヒアリングでは,オフショアで運用指示がなされるファンドでは,MSCI Japanインデックスの組み入れ銘柄以外は原則として投資対象とはならないという。
海外機関投資家の増加は,MSCI Japanインデックスの組み入れ銘柄に限られる可能性が強く,この要因がどの程度海外機関投資家の銘柄選択を規定しているかが解明される必要がある。

MSCI JapanインデックスとはアメリカMSCI社が提供している「MSCI Standard Index」のうち、「MSCI Japan Index」という指数です。これは日本に上場する大・中型株を対象にした指数で、2018年4月時点で321銘柄が採用。3ヶ月ごとに構成銘柄の見直しが行われています。

海外の運用機関は個別銘柄に投資して積極的な利益を得ようとする(アクティブ運用)よりも、指数連動型の金融商品を買ってその国の経済成長に連動する形で資金を運用する(パッシブ運用)のが一般的です。

海外の機関投資家が日本株へ投資する場合、必然的に日本の代表的な指数連動型の金融商品でパッシブ運用することになります。そして日本の代表的な株式指数として選ばれているのがMSCI Japanインデックスであり、その構成銘柄にも資金が集まることになります。

海外の機関投資家が選好する銘柄(まとめ)

以上のように海外の機関投資家は

  • 規模・流動性、収益性、安定性、財務健全性などの点で質の高い企業の株式
  • 役員数は少なく、社外取締役の比率は高く、問題のありそうな大株主のいない企業の株式
  • 情報公開の進んでいる企業の株式
  • MSCI Japanインデックス採用銘柄

を選ぶ傾向にあります。

日本の株式市場を占める海外投資家たちの資金は6割とも言われており、日本株を取引する上で無視できない存在です。

海外投資家たちの習性を知って自身の取引に活かせればパフォーマンスの向上につながりますので、ぜひ今後の取引の参考にしてください。

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