政策保有株(持ち合い株)ってご存知ですか?

旧財閥系を中心として複数の企業がお互いの株を保有しあう制度(慣習)のことで、戦後からバブル期にかけて拡大しました。

政策保有株とはどのようなものなのか?政策保有株の歴史やメリット・デメリット、解消が進んでいる理由について解説しました。

政策保有株とは?政策保有株の目的・メリット

政策保有株とは、系列企業や取引先企業の間などで互いの会社の株を保有しあうことで、互いの株を持ち合うことで取引関係を強化したり、敵対的買収を防いだりする目的があります。SNSの相互フォローみたいなものだと考えればイメージしやすいと思います。

戦前の財閥系グループ内の企業では多く見られましたが、戦後に財閥が解体。一時的に消滅しましたが、系列企業内で再び政策保有株が復活しました。

日本独特の仕組みだと言われており、2社間だけではなく3社間で行われる場合もあり、「三角持ち合い」「循環的相互保有」と呼ばれる場合もあります。

政策保有株のメリット
  1. 系列関係の維持
  2. 取引関係の強化
  3. 敵対的買収を防ぐ

政策保有株の歴史

政策保有株が広まった経緯ですが、戦後の財閥解体後、主に3つの段階に分けて広がりました。

  • 第1期:戦後の取引所再開から1965年の不況期まで
  • 第2期:1960年代の不況期から石油危機まで
  • 第3期:石油危機からバブル期まで

第1期:戦後の取引所再開から1965年の不況期

戦後に財閥が解体され、時を同じくして証券市場も再開されました。

戦前に比べれば個人でも手軽に株式を取引できるようになりましたが、戦後の混乱期においては個人株主が増えることは株式の発行企業にとっては複雑な心境でした。戦争で疲れ切った人々が株式を保有し続けるのは難しく、なにかあればすぐに株を手放してしまい、株価の下落につながるからです。

そのため、個人株主が増えることよりも特定の企業に株を買い占めてもらった方が、株式を発行している会社としては都合が良い時代でした。

1949年と1953年に独占禁止法が大幅に改正され、企業による株式の保有制限が緩和されると、株の買い占め対策としても政策保有株が急速に進んだそうです。

第2期:1960年代の不況期から石油危機

1960年代には証券不況が発生しましたが、不況対策として株式の買い取り機関によって株が買い取られて株価を維持。買い取られた株が市場に放出されました。

放出された株を銀行や企業が買い取ることで株の持ち合いは一層進みます。

1964年には日本はOECD(経済協力開発機構)に加盟しましたが、これにより対外資本取引が自由化されます。外国資本による日本企業の乗っ取りが発生するのではないかとの懸念が広がりましたが、産業界からの要請により商法が改正され、持ち合い株が普及するきっかけになったとされています。

第3期:石油危機からバブル期

石油危機からバブル期にかけては、新株を発行して資金調達を行う「エクイティ・ファイナンス」が活発になります。

エクイティ・ファイナンスの受け皿として各銀行が系列企業の株を盛んに購入するようになりました。これにより銀行の持ち株比率が高まることになり、企業にとっては安定株主を獲得することになりました。

銀行にとっても保有株式の株価上昇による恩恵を受けられ、政策保有株の全盛期となります。

政策保有株の問題点・デメリット

こうして政策保有株は広がりましたが、デメリットもありました。

たとえば、企業の資本が他社の株式を保有するためだけに拘束されてしまうため、新規投資資金が足りなくなってしまったり、資本効率が悪くなるといったものが挙げられます。政策保有株を持ち合っている間はお互いの企業が同じように資金拘束されるため、取引関係は維持できても会社の発展にはマイナスにもなりえます。

また、株式を相互に持ち合うことは「モノ言わぬ株主」を生み出すことにもつながり、議決権行使による監視機能が低下します。この場合は経営者の意向に沿った決議が通りやすくなり、株主全体の利益が損なわれる恐れがありました。

政策保有株を持ち合っているということは取引関係における力関係が対等であるように見えますが、実際には保有している株式の時価総額の大小や、発注側・受注側での上下関係が生まれてしまいます。

グローバル化が進む時代においては国際競争力を下げる原因とも考えられ、政策保有株を解消する理由の1つとなっています。

政策保有株のデメリット
  1. 資本が拘束される
  2. モノ言わぬ株主が増えることになり、株主全体の利益が損なわれる
  3. 企業間の上下関係を生む原因となる
  4. 国際競争力の低下につながる

政策保有株の削減・売却・解消が進んだ理由

政策保有株の比率は1990年代半ばをピークに減少を続けています。持ち合い株の解消が進んだ理由は以下の5つです。

  1. バブル崩壊により売却益が必要となった
  2. バブルの崩壊により持ち合い株の株価が下落。損失回避のために売却が進んだ
  3. 会計基準の変更(金融ビックバン)
  4. 海外の投資家を中心に批判が強まった
  5. 持ち合い株の開示ルールが厳格化された

1:バブル崩壊により売却益が必要となった

1990年頃、不動産バブルが弾けました。

経営を維持するための資金が必要になった企業は、手元資金を確保するために政策保有株の売却を進めます。政策保有株の保有比率が高かった銀行では、不良債権の処理をするためにも売却を進めていきました。

金融資産としては政策保有株の収益性は低かったため、真っ先に売却のターゲットになったということですね。

「お互いの関係を強化するため」といっておきながら、いざ自分の身が危うくなると真っ先に切り捨てる…この潔さに痺れます。

2:バブルの崩壊により持ち合い株の株価が下落。損失回避のために売却が進んだ

バブル崩壊により上場企業の株価は下落を続けましたが、バブルの崩壊は同時に政策保有株の評価額の下落を意味します。

買値よりも高い間は保有する意味もありましたが、バブル崩壊の影響は凄まじく、政策保有株の中には損失を拡大させるだけの”お荷物も”多く見られました。こういった含み損銘柄は経営上のリスクでありマイナス要因でしかありません。

とくに政策保有株の比率が高かった銀行は、保有する持ち合い株の株価下落により自己資本比率の低下にもつながりました。そのため、バブル崩壊を機に銀行は政策保有株の解消を進め、これがバブル崩壊後のダラダラと株価が下がり続ける停滞期の原因になったともいわれています。

3:金融ビックバンにより、会計基準が変更された

1996~2001年にかけて、日本の会計制度を国際基準に合致させるために『金融ビックバン』が行われました。

金融ビックバンが行われる以前では、日本の会計制度では企業が保有する有価証券(持ち合い株を含む)は取得原価で計上されていました。新しい会計制度では有価証券を”時価”で評価して貸借対照表の資産の部に計上することになります。このため政策保有株の利益や損失は自己資本比率にダイレクトに響くようになりました。

政策保有株を大量に保有していた銀行にとって、自己資本比率が上下することは経営上の大問題です。本業の業績とは関係がない政策保有株のせいで自己資本や収益性を表す指標が変化することは、他の企業にとっても好ましいことではありません。そのため銀行も企業も政策保有株の解消を加速することになりました。

4:海外の投資家を中心に批判が強まった

海外の投資家からの批判を招いたことも、政策保有株の解消につながりました。

政策保有株のデメリットの章でも書きましたが、政策保有株は資金拘束や国際競争力の低下など、株主にとって不利益になることがあります。

政策保有株のデメリット
  1. 資本が拘束される
  2. モノ言わぬ株主が増えることになり、株主全体の利益が損なわれる
  3. 企業間の上下関係を生む原因となる
  4. 国際競争力の低下につながる

株主還元や資本効率を重視する外国人投資家にとって、日本独自の慣習である政策保有株のような制度は受け入れがたいものでした。莫大な資金力を武器に日本株を取引してた海外投資家からの圧力によって、政策保有株の解消が進みました。

5:持ち合い株の開示ルールが厳格化された

2018年6月1日、東京証券取引所の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が改訂され、持ち合い株についても開示ルールが厳格化されました。内容は以下のようになっています。

  1. 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき
  2. 取締役会等で適否を検証する政策保有株式の対象が主要株式から個別株式へ拡大。保有目的の適切性や保有にともなう便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを具体的に精査し、その検証内容について提示すべき
  3. 議決権行使方針の具体的な基準を策定、開示し、その基準に沿った対応を行うべき
  4. 自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)から株式売却等の意向に対し、取引の縮減を示唆するなどにより、売却等を妨げるべきではない。
  5. 政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない

野村資本市場クォータリー 2018 Autumn『我が国上場企業の株式持合い状況(2017年度)』より

「持ち合い株を保有し続ける合理的な理由がない限り、保有を継続するべきではない」という意思が感じられますね。

企業統治(コーポレート・ガバナンス)は以前話題になったことがあるESG投資のG(Governance)に該当し、日本の上場企業も無視できなくなっています。

政策目的で取引先や関連会社の株を互いに保有しあうのは、投資の観点からは非合理的です。開示ルールの厳格化に伴い、政策保有株の解消はますます進むでしょう。

また、2019年3月期からは、政策保有株の種類(銘柄)や量(株数)、保有目的を有価証券報告書に記載するよう求められています。これまで政策保有株までは興味を持たなかった投資家の目にも具体的な銘柄や保有株数、保有目的が晒されることになり、「お付き合い」で持っているだけの非合理的な持ち合い株については株主から売却するよう圧力がかかると予想されます。

政策保有株の現状

さて、こうして解消が進みつつある政策保有株ですが、2021年時点ではバブルのピーク期の3割程度にまで削減されています。

政策保有株を所有している企業のランキングトップには相変わらずメガバンクが占めていますが、バブル期に比べて相当減っていることは評価に値します。

政策保有株の比率 時系列(野村資本市場クォータリー 2018 Autumn)から

三井住友、三菱UFJ、みずほの3メガバンクだけで4兆円相当の政策保有株を抱えているものの、一部の大手銀行では政策保有株をゼロにする目標を掲げるところも出てきています。今後は銀行を中心に政策保有株の売却が加速し、やがてはゼロになる日も来るでしょう。

現在、株式市場はバブル崩壊後の最高値を記録するなど順調です。株価が高いうちに政策保有株の売却を進めることができれば、売却益を得ることもできます。今がチャンスとも言えますので、非合理的な政策保有株については処分が進むといいですね。

参考:お付き合いで「たくさんの企業に株を持たれている」150社(四季報オンライン)

まとめ

以上が政策保有株の解説となります。

政策保有株はバブル崩壊からは減少傾向にありますが、いまだに上場企業の株式時価総額のうち10%近くを占めています。最近では主に企業統治の観点から売却が進んでおり、市場に与える影響は無視できません。金融機関による売却で上値が重くなる銘柄も出てくると考えられるので、需給で取引をしている個人投資家の方は、政策保有株について一度調べてみるとよいでしょう。自己資本比率や保有資産にも影響があるので、バリュー株投資をやっている方も今後は政策保有株についてチェックしておくと取引の参考になるかもしれません。

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