菅 義偉(すが よしひで)内閣総理大臣が次の自民党総裁選に不出馬すると発表し、次の総理大臣が誰になるのか、早くも話題になっています。菅政権の影響で料金収入が下がっていた通信株は軒並み上昇し、総理大臣候補者の関連銘柄にも先回り買いがはじまっています。

そんな中、立候補の意向を示している高市早苗氏が掲げている「金融所得増税」案が、投資家の間で話題です。私としては金融所得の増税案に賛成なのですが、投資家にとっては利益が減ることになるので不評のようですね。なぜ私が金融所得の増税に賛成なのか、現時点での考えを書き残しておきます。

高市氏が掲げる金融所得増税案とは?

過去の高市氏の発言などから、高市氏が総理大臣になった場合、株の譲渡所得や配当金に課せられる税金が増えると予想されています。現状は約20%ですが、年間50万円以上の金融所得を得ている人では税率を30%に引き上げたいとのことです。株の配当金で生活している人にとっては税率が一気に5割増しになる可能性があり、投資家たちは戦々恐々です。

消費税が2%や3%上げるのにさえ、かなりの困難を伴いました。高市案では金融所得への課税が20%→30%へと一気に10%も上がる可能性があるのですから、反発を生むのも当然です。

私としては日本はもっと金融課税を強化した方がよいと考えているので、高市氏が総理大臣になれなかったとしても金融所得への税率アップは早く実現してほしいです。

私が金融所得の増税に賛成な理由

優秀な能力の活用

金融所得の多い人たちにはすでに十分な金融所得があるのですから、もっとたくさん税金を納めて社会の助けになって欲しいです。働かずとも金融所得だけで食べていけている方たちは、遺産相続の場合を除き、優秀だったからそれだけの資産を築けたとも言えます。彼らには十分な金融所得があるからといって引退して優秀な能力を封印するのではなく、再び労働市場に出て社会の発展を手助けしてほしいです。増税により優秀な人たちが再び社会に出てきやすくなるのであれば、いいことだと考えます。

もちろん「金融所得が多い人=優秀」というロジックは、金融市場や資本主義社会においてのみ通用する価値観にすぎません。そのため優秀な投資家が社会に出ても役に立たず逆に迷惑になる可能性もあります。しかし、働かず、社会に何の貢献もしていないのではニートと同じです。カネを払える裕福なニートか、それともカネを払えない貧乏なニートかの違いにすぎません。

金融所得の多い方はせっかく優秀なんですから、もっと社会に出て活躍していただきたいです。優秀な人たちを社会に引っ張り出せる可能性がある、という意味において、金融課税の強化に賛成です。

金融所得は逆進性が高い

現在の日本の税制では、労働による所得よりも金融所得の方が税率が安い傾向にあります。

所得税は累進課税になっており、たくさん稼いだ人ほどたくさんの税金を払う仕組みです。年収195万円以下の人は0%ですが、年収1800万円以上の人は40%となり、住民税と合わせると稼ぎの半分を税金で失います。

ところが株の配当金や譲渡益にかかる税金は一律20.315%であり、株で10万円増やそうが10億円増やそうが、税率は一緒です。このことが所得格差の拡大に拍車をかけています。

私は労働が美徳とは考えていませんが、それでも「投資を始めるためにはまず労働収入が必要」という事実を考えると、一定の労働収入を得た選ばれし者しか金融所得を得られないのですから、多くの資産を持つ金融所得者に対してはもっと課税しても良いと考えます。

金融所得50万円~では、投資の消極化にはなりえない

高市案への反対意見の中には、「せっかくNISAやiDecoで投資への呼び水をしているのに、これでは冷や水になる」との意見もありました。

たしかに増税は投資への関心にブレーキとなりますが、たかだか年間50万円以上の利益に対する課税強化では、国民の投資の消極化にはなりえません。これまで投資をしてこなかった人で、これから年間50万円以上の配当金をもらえたり譲渡益を出せるような投資を始める人がいるとは考えにくいからです。年間50万円以上の金融所得を得られる人はずっと前から投資をしていたはずですから、いまさら税率が上がったところで投資をやめることはないでしょう。

また高市案ではNISAやiDecoとの兼ね合いについては詳細がわかりませんでしたが、NISA、iDecoといった非課税枠とは別口での金融所得に対する課税強化なのであれば、すでにNISAやiDecoに投資ができるくらい余裕のある人が更に投資している分に対する課税強化となるため、大多数の庶民にとって影響は皆無です。資産が少なく投資への興味も持ってなかった庶民がいきなり年間50万円以上の金融所得を得られるようになるとは考えにくく、「投資への冷や水になる」といった反対意見は、都合のいい方便にすぎません。

年間50万円以上の金融所得を稼げている人は十分裕福な方です。十分な種銭があり、その上さらに50万円以上も金融所得が得られる…これで裕福ではないと考えることの方が無理があります。

裕福な方々には多めに税金を負担していただき、生活に困っている方や国の未来を担う人たちに再分配する。税や社会保障の理念からすると、金融所得への課税強化案はまっとうな意見だと思います。

富裕層の海外逃避にはつながらない

金融所得がある富裕層への増税案が話題になると、必ず富裕層の海外への逃避を心配する声が出てきます。多額の納税をしている富裕層が海外に流出することで、税収が減るというものです。しかし、日本においては富裕層の海外逃避も心配ご無用です。

モノが安くて、安全で、清潔な水道水がいつでも飲める国から出ていこうと考える富裕層は多くありません。なんだかんだと文句を言いつつ、日本の金融所得税って他の先進国に比べて安いですし、金融課税が強化されたからといって、海外へ逃避する富裕層は少ないでしょう。

日本の富裕層が海外へ逃避する場合は増税に対する不満というよりも、むしろ税金の使われ方に対する不満の方が大きいです。未来を見据え、長期的な視点からビジネスをしたり投資をしたりして成功してきた富裕層たちからすれば、少子高齢化が進む中、余命数年の老人のために税金をばら撒き、未来ある子供や若者たちにお金を使わない国に対する絶望感から逃げ出す人が多いのではないでしょうか。金融課税が強化されるからといって、富裕層の海外逃避は心配しなくて大丈夫です。

人生ゲームの一発逆転ができなくなる

日本では給与が減り、税金は高くなり、可処分所得は減り続けています。そのため、投資(金融所得)は貧乏人がお金持ちになる最後のチャンスと捉えている方がいます。

たしかに金融所得は人生ゲームをクリアするための武器になりますから、金融課税の強化は一発逆転の望みを奪うことになりかねません。

しかし、金融資産で過去に一発逆転を当てて来た人の例を調べればわかると思いますが、税率が20%→30%になった程度で一発逆転できなくなるような、そんなキワドイところで一発逆転できた(できなかった)事例はありません。一晩で一発逆転できるくらいの大金を手に入れてしまう場合においては、10%の税率の差などたいした差ではありません。一発逆転できる人は税率が何パーセントでも一発逆転できる金額を稼ぎます。

また、コツコツと時間をかけて配当金生活や不労所得生活を手に入れた人も、税率が上がればその分不労所得生活を実現するまでの時間はかかりますが、堅実に金融所得を増やしているのであれば税率が上がっても数年遅れで結局は不労所得生活を実現できます。

「金融課税が強化されたことで人生ゲームがクリアできなくなる」ということはありませんので心配は無用です。税率アップのせいでクリアできなかったのであれば、それは元々クリアできる能力がなかっただけのことで、税率が現状維持だったとしても結果は変わらないです。

投資家を名乗るのなら、たくさん納税して、たくさん尊敬されましょう

以上のように、私は金融所得に対する課税強化には賛成の立場です。

たくさん稼いだ人はそれだけたくさん納税することになり、それだけたくさん社会貢献しているということになります。投資家や資産家を名乗るのであればその分たくさん税金を払い、社会に貢献すればいいんじゃないでしょうか。そしてあまり税金を払っていない人は、たくさん税金を払って社会を支えてくれている方たちに感謝をし、日々を過ごせばいいんじゃないかと思います。

高市案では、金融所得への増税を行うことで年間3000億円の税収増加が見込まれるとされています。わずか3000億円しか増えないことを考えると、年間50万円以上の金融所得者への課税強化をするよりも、資産そのものに対する課税(資産課税)をした方が効果的です。ただし資産課税はマイナンバーにより個人資産を正確に把握必要があり、マイナンバーへの拒絶反応やデジタル後進国である日本の現状を考えると実現は不可能です。そう考えると、話題の高市案はわりと現実的な政策なのではないかと感じます。自民党総裁選における高市さんの得票予想はかなり低いようですので、高市政権が実現する可能性もかなり低いんですけどね…。

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