「知識があれば一生安泰」「大卒者は高卒者よりも生涯賃金が多い」

あなたもこのような言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

学歴社会においては、中卒よりも高卒の方が、高卒よりも大卒の方がお金をたくさん稼げます。会社に就職した場合にはより高学歴の人の方が低学歴の人よりも高い役職に就けるようになるし、高度な仕事をすることになるため必然的に給料も高くなるし、自分で事業を興したときにも簡単なミスを犯して失敗してしまったり悪い人に騙されたりしにくいからです。

そのため高い学費や教育費を払ってでも学歴を求める人は大勢います。これはまるで「教育への投資」です。

しかし近年、教育への投資は非効率だと言わざるを得ない状況になってきており、高額な学費や教育費を払っても報われない人が大量発生してきています。教育への投資が非効率でコスパが悪くなっている理由について解説しました。

教育へ投資してもリターンは得られない

教育へお金をかけることで将来たくさんのリターンを得られるという「教育への投資」が長い間信じられてきました。

高校を卒業してすぐに就職するよりも、4年制大学を卒業した方が「大卒というだけで」なぜか年収が増え、待遇は良くなり、出世もしやすく、生涯賃金が高卒者より圧倒的に多くなるという現実があったからです。

このような時代においては、大卒の資格を取るために年間100万円の授業料を支払ったとしても、高卒より大卒者の方が生涯賃金が5000万円多かったりするので、大学へ進学する意味がありました。大学を卒業するために年間100万円の授業料を払っても、長い目で見れば元が取れるとわかっていたからです。

しかしこの「投資としての教育」は社会が高度に発展した現在においては、リターンが悪くなっています。「教育にお金をかければお金をかけるほど、損をする。」とまではいきませんが、近い将来、その状態まで到達する可能性が非常に高いです。

教育費は上昇しているのに、給与は下がり続けている

この30年で、日本人の平均給与は全体的に右肩下がりになっており、大卒・院卒男性の所定内給与(残業手当などの超過労働給与を除いた給与のことで、基本給・職務手当・通勤手当・住宅手当・家族手当などを含んだ金額)も減少しています。

平均給与(実質)の推移 厚生労働白書から
所定内給与額の変化(男性、大学、大学院卒) 厚生労働白書から

日経平均株価は上がっても日本全体では経済成長しておらず、企業が従業員に払えるお金が減り続けているために、平均給与は減り続けています。

少子高齢化により社会全体でモノやサービスの需要が減り、デジタル機器に疎い老人たちが会社の決定権を握っているために生産性が低いまま維持されてしまっていることも経済成長できない原因の1つです。

また、社会福祉費として税金が増え続けており、少ない給料からさらに税金が大量に引かれた結果、自由に使えるお金(可処分所得)も減り続けています。所得から税金の負担割合を示した国民負担率は過去最高を更新し、所得のうち半分近くが税金で消えている状態です。

可処分所得が減るからモノやサービスを購入するお金が減り、経済がさらに勢いを失い…という悪のスパイラルに陥っているんですね。

その一方で、中学や高校、大学の学費(国立私立とも)は増加しています。文部科学省のデータによると、大学の学費については、なんと平成元年~平成17年の間だけでも6割近くも上昇しています。

参考リンク

国立大学と私立大学の授業料等の推移(文部科学省)

学費は上昇していますが、先ほど書いたように教育費をかけたとしても子供が将来稼げる金額は年々減っています。学歴を手に入れたとしても以前ほど収入は増えないわけです。これってコストパフォーマンスがものすごく悪いとは思いませんか?「コスパが悪い」という表現が適切ではないとしても、教育にかけたお金(投資金額)あたりのリターンは悪化していますよね。教育への投資は非効率といわれる原因です。

大学を卒業しても学歴に見合ったポスト(役職)がない

教育への投資効率の悪さは、学歴が高くなるにつれて顕著になります。大卒よりも高卒、高卒よりも中卒の方が教育に対する投資金額に見合ったリターンが得られますが、大学卒業まで行ってしまうと教育にかけてきた金額に対してリターンが少なくなってしまうということです。

なぜ大卒者は損をするかというと、大学を卒業しても、その学歴や能力に見合ったポスト(役職)に就けないからです。

どこの会社でも団体でも、高度な能力や学歴を必要とする役職は”ごく少数”しかありません。大卒進学率が低かった時代には大卒者の人数も少ないため、高度な能力を必要とする企業の役職(ごく少数)は大卒者全員に割り当てることができました。

しかし大学全入時代になり大卒者の数が激増すると、彼らに割り当てられる役職の数は少ないままのため、大卒者が余ってしまいました(供給過剰)。需要と供給のバランスが崩れてしまったので、昭和の時代のように「大学を卒業すれば報われる」とはいかなくなっています。高卒でも大卒でも同じ役職、同程度の給与しか手に入れることができないのが現実であり、大学進学のコスパの悪さが際立っています。

そもそも、大学で学んだことを活かせる職業についている人が一体どれだけいるのでしょうか?

医学部を卒業して医者になる人が一方で、経済学部や文学部を卒業後に一般企業に就職し、大学で学んだことをなに1つとして活かさないまま生きている人もいます。彼らは果たして大学に行った意味があったのでしょうか。

奨学金(借金)をしてまで進学するメリットはない

また、最近では大学に通う学費が工面できず、奨学金(借金)をしてまで大学に進学する人もいます。

借金をしてまで大学に進学してしまうと、社会人になっていきなりマイナス状態でスタートすることになります。借金がなく、稼いだお金を全額自分のために使える社会人1年生と、借金を返済するために働かざるを得ない社会人1年生…。両者には経済的にも精神的にも大きな差が生まれてしまいます。

独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が実施した平成30年度学生生活調査によれば、奨学金という名の学生ローン(借金)をしている大学生・大学院生の割合は約半数にものぼるそうです。

奨学金を受給している学生の割合(公益財団法人 生命保険文化センターより)元データはこちら

これは大卒者の半数は借金を返済するために働いていることを意味し、仕事のモチベーションや就業時の意識にも影響を及ぼしています。たとえば運悪くブラック企業に就職してしまった場合、借金返済のために気軽に退職することができず、奴隷のように働き続ける…といった運命をたどる方もいるでしょう。

大学進学がブラック企業の存続に一役買っており、ひいては日本経済全体の悪化に拍車をかけている…というのは考えすぎでしょうか。

「教育は経済格差を無くすために必要」という意見もありますが、身の丈に合わない学歴を手に入れようとすると身を滅ぼすことになります。教育への無理な投資が、逆に経済格差を広げているのです。

日本は経済格差を生みやすい土壌が整っているのに、これ以上格差を広げてどうするのでしょうか。

学校の先生は進学を勧めるに決まっている

以上のように、進学(特に大学への進学)はコスパが悪いし下手をしたら借金返済のために身を亡ぼすことになるのですが、なぜか高校卒業後の進学率は高まっています。

18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移(文部科学省より)

教育への投資効果は下がっているにも関わらず、なぜ進学率が高止まりしているのかというと「進学を阻止する人がほとんどいないから」です。

大学進学を考えている高校生を例にすると、その高校生と交流のある人たちのうち、進学を反対できる人は親くらいしかいません。

経済的な事情や投資効率の悪さ、本人の学業への意欲などから反対するのが妥当だったとしても、最大の問題であるお金の問題は借金(奨学金)をすれば解決してしまうため、進学を阻むものがなくなります。

また、高校生であれば「学校の先生」に進学について相談しがちですが、学校の先生は無理をしてでも進学するように勧めてくるのが普通です。

なぜならば、教師は100%大卒資格者であり、自分自身の経験から大学への進学を勧めるのが自然だからです。また、学校側としても進学実績を作るためには生徒を進学させる必要があります。高校生が進学について相談する相手として教師は相応しくないのですが、周りに相談できる相手がいないため利害関係者なのに相談してしまい、結果として進学のワナにはまってしまいます。

「進学しても将来後悔することになるかもしれない」なんてことを教師が言えるはずもなく、本来は進学すべきでない生徒まで無理矢理進学することになり、「学歴を手に入れたのに全然稼げない。給与水準は高卒や中卒と同程度。生活も苦しいまま。」という、なんとも悲しい事態を引き起こしています。

将来に備えて学歴を手に入れる、は間違い。

「平均給与は右肩下がり」「何年働いても給料は変わらない」だけど「社会保障費は増え続ける」「年金はもらえないかもしれない」と聞けば、誰だって不安になります。

そういうとき、「学歴があればなんとかなる」という時代がたしかに存在しましたが、現在はそうではなくなっています。不安になると、勉強して知識を手に入れたり資格を取って手に職を付けようとしがちですが、知識や資格を手に入れたとしてもお金が稼げるとは限りません。大金を払って進学したり借金をして無理をしてまで進学するくらいなら、中卒や高卒で社会に出て働き口を探した方がよほど有意義な人生が送れるはずです。

日本では子どもを大学へ通わせられるくらい経済的に余裕のある家庭は減少していくはずなので、自然と中卒・高卒で社会人になる人が増えると思います。勉強する意欲がないのに進学するくらいなら、学歴は無くても若いうちに働いてもらった方が社会にとってもメリットが大きいと感じました。また、勉強する気のない人に学歴を与えるために授業料を無償化するくらいだったら、中卒や高卒の人を雇用する会社にボーナスをあげた方が良い世の中になると思いました。

でも、学歴はやっぱり必要。

ここまで、教育への投資は非効率でリターンが低いことについて散々述べてきました。進学するべきか迷っていた人は、学業への道をきっぱりと諦めることができたでしょう。

とはいえ、

現実的には、日本はまだ学歴社会です。大卒というだけで会社に雇ってもらえる確率は格段に高まります。高卒と大卒の2人が面接に来てどちらか一方しか採用できないとしたら、採用担当者は高学歴の方を雇った方が会社として失敗する可能性が低いと考えるからです。

なので、「自分は無能なんです」という自覚のある人は、借金まみれになったとしても無理をして大学へ進学することをおすすめします。

また、将来やりたいことが決まってないし暇つぶしのためだけに進学するという人や、将来は外国で働きたいという方も大学は卒業しておいた方がいいです。外国で働く場合、4年制大学の卒業者しか雇用ビザが下りないことが多いので、「日本では無能すぎて雇ってもらえなかったけど、海外ではギリギリ雇ってもらえる。」という可能性があるからです。借金(奨学金)をもらってまで進学するべきではありませんが、経済的に余裕があるならなるべく大卒資格をとっておきましょう。

経済と学歴についてはこちらの書籍もどうぞ。

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